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​Koma gallery 特別企画-1 Member Talk  

​(編集/写真/企画=小山幸佑 企画=栗森貴大 フジモリメグミ)

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2021年4月に恵比寿の地にオープンしたKoma gallery。以来、依然続くコロナ禍にも関わらず沢山の方々に足をお運びいただきました。今回は特別企画として、当ギャラリー所属メンバーである栗森貴大、小山幸佑、フジモリメグミの3名により、Koma gallery設立前夜の話から今後の展望まで、さまざまなテーマに渡って対談を行いました。

初めに、Koma galleryの設立経緯について教えてください

 

フジモリ:まず私と小山くんは2019年まで、清澄白河にあったTAP Galleryという自主ギャラリーに所属していました。同ギャラリーに在籍中から、もうちょっと都心にアクセスの良い場所でやりたいという思いや、もっとたくさんの人、知り合いや写真関係者だけでない様々な人が立ち寄れる場所でやりたいという思いがあり、いずれはそんな場所で自分でギャラリーを立ち上げたいと思っていました。7年間在籍したTAPを卒業して、そのとき最初に声をかけて一緒に動き出したのが小山くんでした。小山くんは、TAP在籍当時から、同世代の写真家を集めて冊子を作る活動をしていたり、仕事的にも新聞社を退職してフリーランスになるタイミングであったりしたので、なにかしら新しいアクションを起こしたいように感じていたので、これはもしかしたら上手くやれるかも、と。

小山:僕はTAP Galleryには3年間所属していました。フジモリさんと同じく、いずれ自分でギャラリーを作りたいという思いを持ってはいましたが、当時別に動いてた仲間内でいずれギャラリー立ち上げ、と思ったら話が白紙になってしまったりということがあって、実現するのはもう少し先になるかもしれないな、と思っていたところでした。そんなタイミングで同じ自主ギャラリーに所属していたフジモリさんに声をかけて頂いたことで、お互いTAP Galleryで培った運営経験があるし、上手くいくかも、という予感がして。そうしていよいよ腹を括った、という感じでした。

 

フジモリ:そこからお互いの知り合いや後輩などの中から、作家活動を継続している人たちに声をかけて誘っていきました。

 

小山:メンバーを決めていった際は、経験や作品数などあまり色々な条件で限定することは避けつつも「発表の機会がないと感じている(であろう)人」というのがひとつの基準としてありました。詳しく後述しますが、自主ギャラリーというものはそのような人たちのためにあるから、という考えがフジモリさんと僕との間の共通認識としてあったからです。

 

フジモリ:いろいろな出身校の方に声をかけていたのですが、最終的には同じ専門学校の卒業生9名という形で立ち上げメンバーが決まったよね。

 

栗森:僕は学生の頃に卒業してからも作品制作を続けていきたいと思った時から、フジモリさんや小山さんのように自分自身のギャラリーを持ちたいと考えていました。写真学校を卒業してからは生活環境がその時々で変化していたこともあり、撮影はするものの発表することができていませんでした。写真のストックだけが溜まっていく中で、母校のOB、OGの方が自主ギャラリーの立ち上げを計画しているという話を聞き、これだ!!と感じ参加をすることに決めました。

 

小山:様々な人に声かけたり紹介してもらったりして、仕事後の夜に渋谷のジョナサンで作品をみせて頂いたり、その後しばらくはそのジョナサンが定期的なミーティング会場になっていたのですが、コロナが蔓延するようになってからはミーティングは各自宅からのオンライン方式に切り替えました。その後、コロナによってオープンの予定が延期したりと紆余曲折ありつつ、私たちのやりたいことを理解してくれたうえで色々と相談に乗って頂けた内装業者さんのほか、様々な形で支援して頂いた方々のご協力があり、2021年4月にオープンを果たすことができました。

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2021年3月、内装工事中のKoma gallery。居住用だった2間物件の仕切りを取り払い、1つのギャラリー空間へと改装した。

そもそも「自主ギャラリー」とはどのようなものですか。また、アーティストという視点から、自主ギャラリーに”所属する”ということに、創作活動上どのような利点がありますか。

 

栗森:「自主ギャラリー」とは、各所属メンバーが家賃等を負担し合って共同運営を行うギャラリーです。ギャラリストがいるわけではないので、自分自身の作品を自分主導で展示できるギャラリーです。コンペに通ることで展示が可能になることの多いメーカー系ギャラリー等と異なり、作品の到達点にかかわらず展示できるのが大きな強みであり特徴です。そのためにも各メンバーが経費を負担し、展示以外に運営上発生する雑務などもこなす必要があります。

 

小山:作品制作の過程というのは試行錯誤の連続で、はじめから最短距離で完成まで突っ走れることなんてまずありません。プロジェクトのために当初に立てたコンセプトの通りにはまず行かないし、調子が良い時もあれば悪い時もある、時には1枚の写真を入れるか抜くかで何ヶ月間も悩んだりすることもあるかもしれません。しかも、それがそもそも誰に頼まれ望まれたわけでもなければ辞めるも続けるも自由なのですから、それはとても孤独で苦しい作業になります。そういったまだ未完成の状態において、時に人の目に晒して意見や反応を直接確かめるいうことがブレイクスルーのきっかけになったりすることは往々にしてありますし、むしろそれは作品をより良いものにしていく過程において必ず必要な経験だとも思います。そこで、まずはポートフォリオレビューなどに参加してみるのもありなのですが、あくまでプリントを壁にかける展示という形式をとりたいのなら、まずはそれをすることを受け入れてくれる「場」が必要ですよね。私たちのような小さな自主ギャラリーは昔から沢山ありますが、そこで写真展を何度もやって作品の改良を重ね、やがて大きな場所でその集大成を発表し、それが評価されるという形で自主ギャラリーからもっと大きな舞台へと出ていった作家は大勢います。つまり、自主ギャラリーという存在は、無名作家が実験を繰り返し、試行錯誤を経て実力を育むための土壌になっているんです。

 

フジモリ:それに近年は雑誌の廃刊やコンペの規模縮小など、私が学生の頃目標にしていたような存在は徐々に減少していきました。かといって、私のような作品を作っている作家は、インスタグラムなどのSNSで作品を発表するだけではやっていけないし、自分自身を満足させることもできないなぁと感じていて。そのような点で、自主ギャラリーは、自分の作品を継続的に発表していくことで作家が社会とつながっていくことが出来る場所、なのだと感じています。

 

小山:他にそのような若い作家が実力を育むための場というのは、例えば写真学校がそれにあたるかもしれませんが、むしろ学校を卒業してからの方がそのような場の必要性は増していくと自分の経験上からも思います。僕も写真学校を卒業していますが、もう写真を辞めてしまった同級生を何人も知っていますし、誰に頼まれた訳でなくともモチベーションを維持して写真を続けることそのものがまずはとても重要な課題なんです。

 

フジモリ:私自身、20代半ばの頃、作品があるのに発表する機会が持てなかったり、モチベーションを保つことが難しいという中でフラストレーションを抱えていた頃に自主ギャラリーの存在に出会えて、そこで継続的に作品を発表できた経験があるからこそ、今の私がいると思っています。私にとって自主ギャラリーとは、救いの場であって、作家という生き方をしていくための修行の場かな。

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ロゴマークはグラフィックデザイナーの溝口功将氏作。「独楽の不規則な軌跡」を表している。独楽が自立するためには、常に回転し続ける必要がある。

小山:それから、展示を「しなければならない」状況へ追い込まれる、逆に言えば自分を追い込むことができる、という点も、自主ギャラリーに所属する上での特徴でありメリットだと思います。年数回の定期的な個展という形でスケジュールが先に決まるので、初めは手持ちの作品で良いかもしれませんが、徐々に手持ちが減っていき、しかし会期は既に決まっているので新しく撮らざるを得なくなる、という。それがモチベーションの維持にも繋がりますし、ブラッシュアップの機会を繰り返すことで新たな気付きも生まれやすくなり、そうしていつのまにか手元にたくさんの写真が溜まっていきます。僕は2017年に写真学校卒業後、出版社のフォトグラファーとして一度就職したのち去年から独立して今はフリーランスなのですが、「仕事としての写真」と「写真を通した創作活動」のどちらも両立させたくて、就職と同時に前述のTAPギャラリーに所属しました。会社員時代は週末や長期休みなどを利用して制作に当たっていて、なんとかペースに付いていこうと必死になっているうちに作品が溜まっていき、去年はニコンサロンでの展示を開催させて頂けたほどになりました。

 

フジモリ:自分の作品を見てもらう機会は自分から作らない限りないですし、制作に時間も区切りもない。私自身もまずは継続的に作品を発表していく姿勢が大切だと考えているので、否応なしに締め切りがやってくることはメリットに感じています。私の場合、TAP Galleryに所属していた去年までの7年間では通算21回くらいの個展を行いましたが、必死に制作していた為、手元にはたくさんの作品を残すことができました。だいたい2~3年かけて制作した作品を再構成して外部の公募やコンペに出す、という目標で制作していたので、ここ数年ではニコンサロンで2回、エプサイトギャラリーで1回の大きな展示会をすることができました。私は油断するとダラけに向かうタイプなので、自主ギャラリーに所属しての制作活動は自分に合っていると思います。だからこそ続けてこれたし、これからも大切にしていきたいです。

 

栗森:僕の場合、やはり撮影は楽しいので、写真学校卒業後も仕事の合間を縫って続けていくことができました。ただ、限られた時間の中で、どうしても撮影を優先してしまい、作品としてまとめていく作業が疎かになりがちでした。そういった状況のなかで、締め切りが決まることにより、撮影とまとめる作業のリズムを作れたのがよかったなと思っています。定期的に作品を発表し、その都度自身の作品を客観視することが重要だと考えているので、この良いリズムを継続していきたいですね。

 

小山:とはいえ「年3回の個展」というもののハードルは、実際かなり高めだったりします。何ヶ月も遠方や海外などでまとまった取材をする必要があるような作品を制作している人や、そうでないにしてももっとじっくり作りたい人など、展示頻度と制作スケジュールが合わない人に対しての措置が必要だと思ってもいて。そこで、現在Koma galleryでは、365日をメンバーの数で割った日数を公平に分割するシステムではなく、毎月の月会費をAとBの2段階に分けて、その割合に応じてスケジュールをフレキシブルに分配する方法を取っています。

 

フジモリ:そうだね、年3回の個展ていうのは、実際のところなかなかハードだった。自分自身の経験や他メンバーの制作ペースを見ても、Komaでのスケジュール配分の仕方は我ながら良いシステムだなと思う。私は年3回ペースをキープしていくつもりだけど、みんなにも年2~3回で頑張って欲しいなとは思っています。継続は力なり、なのだ。

 

栗森:インターネットが発達したことを考えると、ウェブ上でもいつでも写真を発表することは可能です。ですが、液晶で画像として発表するのではなく、リアルな空間でリアルな物質としての写真を展示し発表することに、自分はこだわりたいです。リアルで体験することにはかなわないと思っているからです。そのリアルな場で継続して発表するベースを持てることはやはり大きな利点だと思います。

 

小山:僕たちの様な作家には何か特別な資格があるわけではありません。だからこそ、継続的に作品を制作/発表していく、ということが、ある種のパスポート更新のような意味合いを持っているような気はしています。写真作品の制作という共通の目的を通した同業の仲間がいる空間で、モチベーションを維持しつつ制作活動を継続可能なものにしていくこと、そうしていずれ高いところへ登るための実力を育む「道場」的な役割が、僕たちのような小さな自主ギャラリーの存在意義のひとつだと思います。

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既に全てのメンバーが1度ずつ個展を開催し、メンバー展は現在2週目に突入している。バックヤードの扉の裏には今までの展示のDMが並ぶ。

既に様々な自主ギャラリーが存在する中、新たにKoma galleryを立ち上げようと思った理由についてお聞かせください。

 

小山:フジモリさんと僕が長い間所属していたTAP Galleryが活動を終了した時、ギャラリーにもその役割を終える瞬間があるんだ、ということを初めて感じたんです。TAP Galleryも、10年前に当時若手だった4人の写真家(齊藤明彦さん、佐久間元さん、湊庸祐さん、村越としやさん)により設立されました。もちろん創作活動に年齢制限などありませんが、Koma galleryには20代~30代のメンバーが集まったというのもあって、世代のことは多少なりとも意識せざるを得ません。TAPのクローズとKomaのオープンがタイミング的に重なったというのもあって、もしかしたら自主ギャラリーというものはこうして世代交代していく運命なのなのかも知れないと思いました。

 

フジモリ:TAPのクローズとKomaのオープンのタイミングが重なったこと、ちょっと切なかったけど、こりゃしっかりやらなきゃいかんな!と尻を叩かれたような気もした。Komaで活動していく中で、私より若い子たちからまた新しいギャラリーを立ち上げてくれたりしたら嬉しいなと思ったりもする。もっと盛り上げていきたいよね。

 

栗森:そうですね、TAPがクローズすると聞いたときは、TAPのメンバーの中で特に親しくさせて頂いていたフジモリさんと小山さんが卒業していたとはいえ、学生時代から事あるごとに通っていたので、僕ですら寂しさを感じました。何となくですけどTAP Galleryは続いていくものだと思っていたので。そういったなかでギャラリーを新たに立ち上げられたことは大きな意味があるのかなと思います。

 

小山:ちなみに、いまKoma galleryで共用品として使っている木製額ですが、かつてTAP Galleryで共用額として使用されていたものを、佐久間さんに頼んで譲って頂いたものなんです。ギャラリーを立ち上げるという新しいことを始めた裏で、それは歴史や人と人との繋がりの中で存在しているんだということを、この木製額を見るたびに思い出したりしますね。

 

フジモリ:そうだね、TAPから引き継いだものは経験だけではなく、額や壁塗り関係の機材などもありました。

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かつて清澄白河に10年間存在したTAP Gallery(左)が2021年4月をもってクローズ後、同ギャラリーで使われていた共用額(右)は現在Koma galleryにて使用されている。《TAP写真提供=佐久間元》

運営上の苦労話があれば教えてください。

 

小山:苦労話は、いーっぱいありますよ(笑)

 

フジモリ:まず立ち上げるまでが本当に大変でした。やる気満々で集まったは良いけれど、コロナ禍の時代に突入したことで、自分たちのタイミングだけでオープンの時期を決めることが難しかったです。

 

小山:本来は実際より1年早くオープンする予定で動いていたんですが、メンバーも無事集まって、さぁ始めるぞ、という丁度そのタイミングでコロナのことが来てしまって。ギャラリー立ち上げプロジェクト自体を、ほぼ1年間も凍結せざるを得なくなってしまったんです。あの時期は、みんなかなり悔しい思いをしましたよね。こんな時代にギャラリーなんて作っていいのかだめなのか、やるべきなのかそうじゃないのか、判断がとても難しかった。出歩くことそのものが自粛されているような時代に、わざわざ外へ出て足を運ぶ必要のある場所を作るのですから、僕たちの活動を見て嫌な気持ちになる人がいるかもしれない、なんてことも心配していました。

 

フジモリ:物件探しも一時は完全にストップしてしまったし、このままの状態ではせっかく集まったメンバーが抜けてしまうんじゃないかと、不安な時期もありました。みんなのモチベーションを保つために、定期的にオンラインでミーティングを開催したり、オープンに先立ってオンライン写真展を行ったりもしました。オンライン開催のTOKYO ART BOOK FAIRにも出展したよね。それでも先行きが見えない中、これ以上このまま待っていてもしょうがないと物件探しを再開して、すぐ、今回オープンした恵比寿の物件に出会ったよね!

 

栗森:本当にとんとん拍子で決まっていきましたよね。元々考えていた恵比寿エリアですし、さらに東京都写真美術館の近くというおまけまで。

 

小山:そういえば、コロナ前に一旦もう決まりかけていた物件があって、そこは今のKomaと同じ恵比寿にある老舗のコマ屋さんの上の事務所物件だったんです。じゃあ名前は”Koma”galleryにしよう、とギャラリー名がすんなり決まったものの、その後のコロナだったので、結局そのコマ屋さん上の物件は諦めざるを得なくなってしまい。その後、1年経って立ち上げを再開して今の物件に出会ってからも、立ち上げプロジェクト凍結中に色々と苦しかったことも含めてそんなこともあったよねという意味でもそのままの名前でいこう!となりました。今の物件は立地も理想的だし、ある意味不幸中の幸いというか、コロナ禍のせいで家賃が平常時の相場に比べてかなり破格だったんですよ。しかも大家さんが、壁から何から全部ぶっ壊して良いということだったので。

 

フジモリ:内件してほぼ即決だったよね。それからすぐに内装工事に入って、小山くんと私は物件担当だったから本当に大変だったよね。内装業者さんとの打ち合わせや立ち会い、確認とかいろいろ。

 

小山:実際のハコ作りは、こんなに大変なのかってくらい大変でした。昼間は仕事もあったので、とっくに終電が終わった夜中、自宅から恵比寿まで自転車をぶっ飛ばして工事の進捗を何度も見に行ったりもしていました。ただ結果的には、オープン時には密を避けるため入場制限をしたほど予想を超えて沢山の方々にお越しいただいて、ちょっとハラハラしつつも、あの光景は本当に嬉しかったですね。

 

フジモリ:嬉しかった。めちゃくちゃ美しい瞬間だった。オープンからが本当のスタートではありますが、準備してきたことが報われた瞬間でもあり、感無量でした。

 

小山:それから、これは苦労話なのかどうかわかりませんが、自主ギャラリーには「作家主体であり続けられる」場であると同時に、それを運営するのも所属作家たち自身ですので、作品制作以外の実務的なこともすべて自分たちでやっていかなければなりません。ここにはギャラリストも、キュレーターも評論家も審査員もいないので、展示やその運営だけではなく、定期的な壁塗りなどの設備管理や保守、備品の調達、企画やイベント発案やその運営、家賃や光熱費の計算まで、全て自分たちで分担して行っています。Koma galleryの場合、基本は「備品管理担当」や「企画担当」「経理担当」など、それぞれ担当を持ち回りで分けていますが、その時たまたま手が空いている人がサポートに回るなどして流動的である場合も多いです。

 

栗森:メンバー9名が集まっているので、何か行うときの意思統一には苦労することがありますが、各々妥協できる点や逆に譲れない点を踏まえて話し合うことができているので、これまで大きなトラブルなく運営できているかと思います。

 

小山:例えば、備品について「これがあったら良いな」と感じたメンバーがいれば誰でもそれを提案することができるし、メンバーにこれどうですかと共有して全員の承諾を得た上で、ギャラリーの貯蓄から、もしくは月会費に人数割り勘で上乗せすることで購入費を捻出する、というような形を取っています。つい最近では、冬に近づいて在廊時に足元が寒くなってきたということで、カウンターの下に設置できるヒーターをみんなの割り勘で購入したりとか。あくまで写真をやるのが第一の目的なので、作品制作以外の面で運営に関わる事務的な色々についてはなるべく減らしていきたいのですが、避けては通れないことでもあるため、なるべく負担が偏らないようメンバー間で協力し合って運営しています。

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​新型コロナウイルスにより写真とそれを取り巻く環境が変化する中「こんな今だからこそ、何かを始める意味がある」という意見でメンバー全員が一致し、コロナ禍でのオープンを決断した。

Koma galleryの今後について、こうしていきたい、などありましたら教えてください。

 

小山:実は、設立前のまだギャラリーの名前も決まっていないような段階に、新しいギャラリーのコンセプトについてメンバー間で話し合いを重ねていく中で「交流をしたい」という言葉が何度も出ていました。ここでのそれというのは、メンバー内外の作家同士の交流はもちろん、写真以外の分野のアーティストとの交流、そして作家とお客さんとの交流です。これについては今でも試行錯誤していて、何か面白いことができないかなと常に考えているところなんです。

 

栗森:写真関係者は勿論のこと、普段ギャラリーまで足を運ばないような層にもKoma galleryに行けば面白いことがやっていると感じてもらえるようにしていきたいです。写真作品の展示に限らず、外部の方を呼んで展示をしてもらうことや、いろいろなイベントを打つことを含めて様々な角度から盛り上げていくことが重要だと思っています。

 

フジモリ:メンバー展を行っていくと共に、外部の作家さんを招いての企画展や、個人的には製本のワークショップなどもできたらいいなと思っています。

 

小山:結局、僕たちの展示を観にKoma galleryまでわざわざ足を運んでくれるお客さんの存在がなければ、僕たちのような自主ギャラリーの意義は初めから成り立たないんです。ただ単に「作家の好きなことができる空間」を作りたいなら共同でアトリエを持てば良い。若い作家がその制作の過程や試行錯誤を荒削りでも出していく、そしてそれを面白がってくれて見に来てくれるお客さんがいる。ギャラリーである=お客さんが来てくれる、という点が、私たちの活動にとって最も大切かつ重要な部分であると思っています。最近は、作家が展示会期中にギャラリートークをするインスタライブを始めてみたりもしています。日本でもここ数年は自主制作の手製本で手売りの写真集なんかも増えてきましたし、作り手と受け手が第三者を介在せずダイレクトに繋がる、というのが今の時代のひとつの流れなんだと思います。プリントの展示や本という形で実体のモノとして届けることと、SNSなどのデジタル技術を用いて発信していくことはどちらも重要で、両者のバランスをうまく取りつつ、これまで以上にもっとお客さんと交流ができる場にしていきたいです。

 

フジモリ:そうだね。まだしばらくコロナの時代は続くでしょうから、ただ展示するだけではなく、インスタライブ等を活用して作家自身からどんどん発信していけたらなと思います。いつもたのしそうな、たのしいことを発信してるあの人たちね!みたいな存在になれたら良いな。

 

小山:ちなみに最近は、お客さんとして来てくれた現役の写真学生の方々が、在廊しているメンバーに色々な相談を持ちかけてくれることなんかも多くなっていて。いくつかある写真の専門学校のひとつである渋谷の日本写真芸術専門学校がギャラリーから近いというのもあるのですが、作品制作についてのことはもちろん、将来にわたって写真を続けていくための仕事や生活に関してのことなど色々な話をしに、授業終わりにKoma galleryに立ち寄ってくれたりしていて。そうして後輩たちが写真のことを考えるために気軽に立ち寄れる場になりつつあることはとても嬉しいです。

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コロナの時代を経て、何がどう形を変え、何が変わらずに残るのか。​ギャラリーという「場」の役割を模索している。

最後に、展示を見に来て頂いているお客さんや、他のメンバーに対して、メッセージをお願いします。

 

小山:まず、運営していくにあたって「内輪ノリ」になってはならないというのは、メンバー間では共有できているボーダーラインなんじゃないかなと思っています。Koma galleryはあくまで、同じ方向を向いている者同士が共通の利益のために集まっている集団なので、ギャラリーに所属していること自体に満足して展示がマンネリ化することのないよう、常に緊張感を持ち続け制作に対して決して妥協しないことや、写真家であればこうあるべき=こうでなければ写真家にあらず、みたいな一種の規範に縛られてクローズドな方向に向かって行かないように気をつけるというのは、とても大事なことだと思います。大切なのは、良い写真が撮れるか、良い作品が作れるか、そしてそれを継続していけるかです。その中で「ギャラリーに所属する」ということはあくまで制作活動を継続するためのひとつの手段なので、それぞれの作品とその制作に対する姿勢にこそ敬意を持ち合っていけるような関係性をメンバーには望んでいますし、自分自身もそうありたいと思っています。

 

栗森:そうですね。時期は違いますが同じ学校を卒業し、何かの縁で一緒にギャラリーを立ち上げることになったメンバーのみんなとは、お互いよい意味で意識し合い、切磋琢磨できればなと思っています。

 

フジモリ:マンネリ化しないように、っていうのは私自身も常に気をつけないといけないと思っていて、なにかしらの形で自分自身にプレッシャーをかけていこうと。しんどいこともあるけど、自分自身のためになるし、それはギャラリーのためでもある。今は私はzineを更新しながら作り続けていくという試みと、インスタライブなどで作品について話したり、発信していくということを必死にやっていますが、これも一種のプレッシャーかな。

 

小山:そして、創立1年目のうちからこんなことを言うのもどうかなと思うのですが、冒頭で「役目を終える時がある」と言った通りKoma galleryもこの先ずっとあるわけではなく10年後にはもうなくなっているかもしれませんし、その時にはメンバーの誰かや、僕たちの活動を見てくれていた後輩たちによってまた新しいギャラリーが作られているかもしれません。もしそうなったら、嬉しいし最高ですね。その時、うちの木製額がまだ綺麗に残っていればぜひ持っていって欲しいなってことも、冗談半分、本気半分で思っていたりもしますよ。

フジモリ:分家していくのも良いかもしれないし、2号店オープンも個人的には目論んでいたりします。Komaもメンバーの入れ替わりとかは今後あると思うけれど、まずは10年、続けていきたいよね。

 

栗森:東京都写真美術館から歩いて5分とかからない場所にギャラリーがあります。なので、まずは何かのついででも良いのでぜひ足を運んでいただければと思います。その中で興味のある作家や作品を見つけていただければ幸いです。

小山:たぶん、みなさんが想像している以上に、ギャラリーのドアを開けてお客さんが入って来てくれた瞬間や、芳名帳でお名前を見る瞬間っていうのは展示をしている作家にとって嬉しいことなんですよ。オープン時と比べても最近はご来場いただけるお客さんの数が着実に増えていて、僕たちのことに興味を持ってもらって、わざわざギャラリーまで足を運んで写真を観ることに時間と労力を費やして頂く、ってものすごく有難いことだと日々感じています。その中で、作品へ頂いたリアクションに対して僕たち側からもさらに何かを発信していきたいですし、そうしてKoma galleryという場で相互のコミュニケーションが生まれれば最高だなと思っています。

 

フジモリ:私たちから発信を続けていくことで、お客さんにも楽しんでもらえたらいいなと。そういう形があってこそ、表現を続けることの意味があると思っています。

​(終)

<プロフィール>

栗森貴大(くりもり・たかひろ)

1996年、神奈川県出身。日本写真芸術専門学校卒業後、会社勤めの傍ら、生まれ育った横浜市北部を被写体に作品制作を続ける。2021年Koma gallery にて初個展「佇む面影01」を開催。

​小山幸佑(こやま・こうすけ)

1988年、東京都出身。出版社写真部勤務を経てフリーランス。2021年現在、イスラエルとパレスチナについてのプロジェクト「私たちが正しい場所に、花は咲かない」並びに、ゆとり世代と日本の失われた30年についてのプロジェクト「アトムの子供」を制作中。

フジモリメグミ

1986年、東京都出身。日本写真芸術専門学校卒業。2011年、petit GEISAI #15 準グランプリ受賞。2013年、TAP Gallery所属 (~2019年)、2015年、「hera」新宿/大阪ニコンサロンにて個展 2017年、写真集「apollon」出版社(ユカイハンズパブリッシング)2018年、「kairos」銀座/大阪ニコンサロンにて個展2020年、「aroundscape」エプソンスクエア丸の内にて個展。同年、第4回epSITE Exhibition Award』受賞。他展示会多数。

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